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ブリーフィング

ロシア事業について日本企業が取り得る選択肢

多くの日本企業が、現在の地政学上の状況を鑑みて、ロシア事業の中断もしくは縮小に着手したか、またはこれらを検討しているところです。このような事業の中断・縮小の実行には、様々な複雑さが伴います。これは特に、(一時的または永久的な)売却による実行を目指す場合に顕著となります。現在のような不確実な時期において、日本企業が「様子見」を決め込もうとするのは理解できるところですが、事は一刻を争うかもしれません。なぜなら、最近提案されたロシアの法律によって、ロシアにある外資系企業の国有化が強制される可能性があるためです。

端的に言えば、日本企業の選択肢は、ロシアに留まるか、事業に「モスボール保管措置」を講じるか、完全に撤退するかの3つになります。それぞれの選択肢には、メリットとデメリットがあります。

ロシアに留まる ロシアにおける事業の継続には、事業から得られる経済的利益と事業に対する支配権を維持できること、撤退する他のプレイヤーを尻目に市場シェアを拡大できる可能性があること、複雑な(かつ重大な障害を伴うかもしれない)撤退プロセスを回避できること、といったメリットがあります。一方で、「平常運転」の姿勢でロシア事業を継続しているグローバル企業各社は、自社のレピュテーションやブランドの毀損といったダメージを被ってきました。また、国際的な制裁措置や輸出規制を回避し、データと知的財産を保護し、不安定な環境下でITの完全性を確保することは、大変な労力を要します。さらに、資金の移動が制限されることで、ただでさえ複雑化している業務に追加的な負荷が生じます。現地での人材の確保(特に駐在管理職)や、合意した通貨での給与の支払いも、困難となる可能性があります。

モスボール保管措置 モスボール保管措置(対象事業について、その価値を棄損しない形で、一定期間、保管・維持するための措置をいいます。)は、日本の親会社からの日常的な支配権を排除することに等しいですが、他方で現在や将来の一部の経済的利益とロシア市場への再参入の選択肢を残すことができます。モスボール保管措置の方法としては、(i)ロシア事業のウェアハウジング(即ち、信頼できる第三者への一時的な売却)、(ii)ロシア事業のロシア側での信託管理体制の確立、(iii)国際信託または財団によるロシア子会社株式の保有、(iv)ロシア事業の現地マネジメントによるバイアウト、などがあります。いずれの方法においても、ロシア国外の親会社は、将来の時点でロシア事業を取り戻すコールオプションや類似の手段を確保することになるでしょう。

これらの方法を実施するにあたって最大の難関は、(a)モスボール保管措置およびコールオプション行使の時点に適用する評価額についての合意、(b)支配権を放棄しつつも、モスボール保管措置が講じられている期間の経営ガイドラインを合意するというバランスの確保、(c)レピュテーションやコミュニケーション上の問題の克服、(d)不安定な環境下におけるカウンターパーティーリスクの管理です。

撤退 ロシアからの完全撤退を選択する場合、日本の親会社には、大きく分けて、(i)第三者または(場合によっては)合弁相手への売却、(ii)財団への売却または贈与、(iii)マネジメントバイアウト、(iv)契約関係の解消または売却、(v)清算という5つの選択肢があります。買い手候補の数が少ないうえ、「売却を強制されている」状況を買い手が利用してくる可能性が高いため、撤退しようとする日本企業が事業売却から相応の収益を得ることは難しくなるかもしれません。また、撤退に関する広報活動も慎重に管理する必要があります。重要な点として、買い手側は完全に機能する事業の取得を主張する一方で、売り手側は重要な技術、ソフトウェア、知的財産、データなどの資産の保持を望むというミスマッチが発生する可能性があります。

ロシア政府の関 上記のモスボール保管措置と撤退のシナリオの多くにおいて、独占禁止法に関する承認やその他の政府承認が必要となる可能性があるため、取引を阻止する機会がロシア当局の手中にあります。そのため、特に注目度の高い取引の場合、どの選択肢を実行しようとしたとしても、ややギャンブル的な要素を伴うことになります。