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ブリーフィング

JFTCが環境持続可能性ガイドラインの改定案を発表

背景

2024年2月15日、公正取引委員会(JFTC)は「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(ガイドライン)の改定案を発表し、意見募集手続を開始しました。

JFTCは、カーボンニュートラルの実現に向けた事業者間の共同の取組を後押しするため、2023年3月に当初のガイドラインを発表しました(そのときの弊所のブログ記事はこちら)。それ以来、JFTCは事業者に対して、ガイドラインについて周知・説明を実施するとともに、事業者から具体的な取組に関する相談を受け、意見収集を行ってきました。

こうした事業者との意見交換の結果を踏まえ、今般、共同の設備廃棄、共同調達等の取組について、独占禁止法上の位置づけを明確化すべく、ガイドラインが改定される運びとなりました。

意見募集は2024年3月18日に終了しており、改定後のガイドラインは早ければ4月中にも発表される見通しです。以下では、今回の改定案における主な変更点について概説いたします。

改定案での変更点

共同の設備廃棄、共同調達等の取組に関する考え方の更なる明確化

当初のガイドラインでは、価格等の競争上重要な事項を制限するような共同の取組は、グリーン社会の実現に向けた取組であっても、一律に独占禁止法上問題となるとされていました。

今回の改定案では、共同の取組が以下の条件を満たしていれば独占禁止法上問題にならないと考えられることを明確にしています。

(i) 競争制限を目的としていないこと

(ii) 脱炭素のために必要な取組であること(例:設備更新、技術開発等)

(iii) より競争制限的でない他の代替手段がないこと

(iv) 競争制限効果が限定的であること

(v) 「一定の取引分野における競争の実質的制限」が生じないこと。

この判断枠組みは、生産数量等の競争上重要な事項についての情報交換等にあたる共同の取組にも適用されます。

脱炭素効果の測定方法及び評価に関する考え方の明確化

当初のガイドラインでは、グリーン社会の実現に向けた取組と競争法の両立に伴う不確実性を背景に、今後、市場や技術変化、相談事例等の動向を踏まえ、継続的にガイドラインの見直しを行っていくとしていました。事業者に対しては、脱炭素のための個々の取組が独占禁止法上問題となるか否かを検討するにあたってJFTCに相談するよう呼びかけていました。

今回の改定案では、JFTCによるそうした取組の評価方法について、より詳細に明記されています。まず、事業者等は、グリーン規制や国際基準の改正、市場構造の変化、技術の進歩等、新しい動向に継続的に対応していく必要があるとしています。事業者による取組のグリーン社会の実現に向けた効果及び競争への影響は、重要な背景事情であるこのような新しい動向に照らして判断されることになります。

また、JFTCはグリーンの取組についての事業者からの説明や主張を踏まえつつ、特に、脱炭素効果については、関係官庁からの情報提供により重きを置く意向であることも示されています。

脱炭素の効果は、さまざまな国内外の基準(省エネ法、GXリーグ算定、国際的な標準であるGHGプロトコル等)を用いて算定可能です。

優越的地位の濫用行為の想定例

改定版ガイドラインでは、グリーン社会の実現に向けた取組が「優越的地位の濫用行為」(abuse of a superior bargaining position:ASBP)にあたる場合とあたらない場合についても説明を追加しています。

ガイドラインでは、商品の製造販売業者が貨物輸送事業者に対して非化石エネルギー自動車の導入を求めながら、その導入に伴うコストを運賃に反映する交渉を拒否して運賃を据え置くことにより、貨物輸送事業者にコストを負担させる行為は、ASBPにあたるとされています。

他方で、商品の製造販売業者が貨物輸送事業者に対してコストを反映した運賃の提案を促し、その合理性について双方で協議を行うのであれば、商品の製造販売業者が一方的に運賃を設定するわけではないため、ASBPにあたらないとされています。

市場の画定

また、改定版ガイドラインでは、グリーン社会の実現に寄与する商品とそうでない商品が互いに牽制し合うのはどのような場合かについて明確にしています。

例えば、グリーン商品(脱炭素に寄与する商品)を強く志向する需要者は、非グリーン商品を代替品とは見なさないことが考えられ、このような需要者に関しては、需要の代替性が限定的であるため、グリーン商品と非グリーン商品が別々の市場を形成すると考えられます。

他方、脱炭素に対する考え方が定まっていない需要者は、グリーン商品と非グリーン商品を相互に代替品と見なし、価格等の他の要素によって商品の選択を行うことが考えられます。このような需要者に関しては、グリーン商品と非グリーン商品の両方を含む市場があると考えられます。

ただし、グリーン商品と非グリーン商品の市場が別個の市場として画定される場合であっても、それらは相互に隣接市場ではあるため、市場外の牽制要因として相互に競争上の影響を及ぼし合う旨、追記されています。

まとめ

JFTCは、独占禁止法に関する分析において、持続可能性にどの程度重きを置くべきかに関して積極的に考え方を発表してきました。例えば、複数の事業者による持続可能性を志向した共同の取組について検討し、個々の案件についてウェブサイトで積極的に情報発信を行っています。今回のガイドラインの改定案は、JFTCが、今後、必要に応じて独占禁止法違反に対する措置を講じることも含め、引き続きこの課題に積極的に取り組む意向であることの表れともいえます。

競合事業者間の共同の取組全般に関して、現時点では明文化された他のJFTCの指針がないため、今回の改定案に詳述された持続可能性を目的とした共同プロジェクトの判断基準は、他の目的での競合事業者間の水平的協力関係にとっても有用な判断材料となると思われます。